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極めて難解な雨漏り事例の報告と考察【雨漏り110番調布店】
本日の雨漏り110番コラムは雨漏り110番調布店の今野が担当します。
よろしくお願いします。
雨漏り散水調査においては、通常、雨漏り具象(=室内に雨水が漏れる、または滲み出すなど雨水が実際に浸出していること)の確認ができていない場合には調査を実施しません。
雨漏り具象が確認できている場合のみ、散水調査による雨漏りの再現が可能となり、雨漏りの時と同じ漏水状況を再現することが、雨水浸入位置(雨水の入り口)の特定につながるからです。
雨漏り具象の確認ができない場合(シミ痕がある、カビが生えている、濡れているような気がする)というのは、例えば、何らかの理由で既に止まっている雨漏りのシミがたまたま残っているとか、あるいは結露によるシミ痕の可能性とかが考えられます。
また結露によってカビが発生したり結露で壁や天井が濡れることもあります。
もちろん調査の際にはいろんな可能性もふまえたうえで実施するわけですが、事前に雨漏り具象が確認されていることが大前提となります。
今回ご報告する事例では、残念ながら雨漏りの再現(雨水浸入位置の特定)はできませんでしたが、今後の経過観察の中で状況確認を行いながらあらためて調査に取り組むことになりました。
まだ原因特定に至っていない事例ですが、たいへんレアな事例でしたので今回ご報告したいと思います。
3階建て木造住宅において、大雨の際に1階掃き出し窓上部が濡れるというお客様からのお話をもとに、サーモグラフィカメラ(赤外線)と水分計を併用し、散水調査による雨漏り再現調査を実施した事例です。
概要としては、雨水浸出位置(雨水が出ているところ)の外装上部において、被疑箇所(雨の浸入位置として想定・疑われる箇所)が複数存在していることや、調査範囲が高所に及ぶことから、散水する範囲に足場を架設し、外壁開口部、貫通部、取り合いへなどへの散水を行い、当該雨水浸出位置である1階掃き出し窓上への雨水浸出を再現することを目指して調査を実施しました。
散水する箇所としては、3階屋根と壁の取り合い、2階外壁、開口部、貫通部、1階掃き出し窓上部外壁などとなり、1箇所の雨水浸出位置に対して雨水浸入位置が1箇所とは限らない【複数浸入雨漏り】である可能性も想定しました。
散水により雨漏りを再現した場合においても、それ以外の被疑箇所として想定した箇所については全て散水を実施することになります。
また雨漏りを再現し、雨水浸入位置を特定した後の散水調査については、特定した浸入位置より上部の被疑箇所へ散水する際は、既に特定した浸入位置へ養生(水がかからないように)を施したうえで、散水することになります。
本件では、各被疑箇所への散水において雨漏りの再現に至らなかったため、特に養生を施す必要は生じませんでした。
また、いわゆる通常の雨では濡れていた記憶がないとのお客様のお話から、木造における基本散水時間(=90分)を被疑箇所によっては大幅に延長することにしたため、調査にかかる日数も5日間を要することになってしまいました。
今回の散水調査の経緯は下記の図の通りとなります。
散水調査1日目:No.1 3階屋根とトップライト取り合いへ90分散水、その後No.2 2階FIX窓上部壁及び縦樋止め金具上部壁、2階開閉窓下壁へ120分散水したが再現せず。
散水調査2日目:No.3 1階シャッターBOX上部のベントキャップ下壁へ140分散水、その後No.4 2階窓して壁へ180分散水したが再現せず。
散水調査3日目:No.5 1階シャッターBOX上部両角へ180分散水、その後No.6 3階バルコニー笠木下壁へ180分散水したが再現せず。
散水調査4日目:No.7 2階上部壁へ180分散水、その後No.8 3階屋根トップライト上部壁及び軒屋根の取り合いへ180分散水したが再現せず。
散水調査5日目:No.9 3階バルコニー笠木下へ180分散水、その後No.10 3階及び2階ベントキャップへ180分散水したが再現せず。
水分計による計測においては、1階掃き出し窓上に5箇所の計測位置を決め、30分から60分間隔で計測を実施しましたが、いずれの散水においても顕著な変化は見られず、またサーモグラフィカメラによる計測でも顕著な変化は見られませんでした。
今回の散水調査においては、計5日間にわたって散水調査を実施し、雨水浸入被疑箇所(雨水が浸入している可能性が疑われる箇所)合計17箇所に対し、それぞれ90分から最長180分の散水をしましたが、当該雨水浸出位置及びその周辺において漏水の再現には至りませんでした。
この調査結果から2つの可能性が考えられます。
1つは、今回の調査で散水した17か所の被疑箇所以外に雨水浸入位置があることです。
つまり今回散水調査をしていない場所に雨漏りの原因がある可能性があるかもしれないということです。
建物の構造と雨水浸出位置の場所、さらにはその傷み具合などから考察して、その可能性は極めて低いと考えていますが、今回の散水調査で特定できなかったこともふまえると、その可能性がゼロとは言い切れません。
もう1つの可能性として、本件の雨漏りがいくつかの複合的な要因が重なった場合にのみ発生する極めて特殊なケースが考えられます。
例えば台風など強風の際に、その風圧によって小さな隙間から室内側に雨水が押し込まれるケースがあります。
また強風によって水が下から上に押し上げられることでケラバや軒下、バルコニーの笠木などから雨水が浸入するケースもあります。
あるいは台所のレンジフード(換気扇)や、浴室の換気扇などが可動した時に、内外の気圧差によって雨水を吸い込むケースもあります。
最近の住宅は気密性が高いため大型レンジフードが長時間可動すると室内が大きく減圧し、その減圧によって小さな隙間から雨水を吸い込むのです。
台風による風圧、強風による押し上げ、気圧差による吸い込み、これらが同時進行した場合にのみ雨漏りが発生するとしたら、散水調査による雨漏りの再現は極めて難しくなります。
また、毛細管現象による雨漏りがあります。
毛細管現象の場合は、雨の量や雨の強さの微妙な違いで吸い上げが起きたり起きなかったりすることがあります。
この場合も、散水調査において、水量(水圧)が多すぎても少なすぎても雨漏りが再現しないため、調査が極めて難しくなります。
雨の量や雨の強さの微妙な違いは、散水調査ではコントロールできないからです。
いずれのケースも稀ではありますが、本件の雨漏りにおいてはそのような様々な条件が重なった場合にのみ雨漏りが発生している可能性があると想定されます。
お客様からのヒアリングにおける『大雨や台風の際に毎回必ず雨漏りが起きているわけではない』『風向きや強さ、雨の量や強さが全く同じような豪雨なのに、雨漏りが起きる時もあれば起きない時もある』という証言も、その可能性を裏付けるものであると考えられます。
雨漏りを解決するためには、まず雨漏りの原因とメカニズムを解明することが大切です。
本件雨漏りの場合は、複合的な条件が重なった時にのみ雨漏りが発生するとも考えられることから、雨漏りの原因及びメカニズムを解明するために、一定期間において経過観察し情報の集積が必要と判断しました。
具体的には、数ヶ月~1年程度の期間において、雨漏り発生時の状況(発生時の気象条件や室内側の状態などのデータ収集)すること。
さらには、雨漏り発生後(翌日)のサーモグラフィカメラによる建物外壁及び内壁の温度変化のデータ収集。
それと同時に、水分計による建物外壁及び室内壁の水分量変化のデータ収集などを行うことが有効であると考えます。
最終的な判断として、雨漏り原因やメカニズムを解明をすることなく、やみくもに外壁を剥がすなどの工事をするよりも、しばらく経過観察をして雨漏り解明の糸口を探ることが、より恒久的な解決につながるものと判断しました。
本件はレアな事例としてご紹介しましたが、雨漏り診断、雨漏り調査においては、できるだけ正確な【雨漏り具象】の記録(雨水の浸出している位置や雨水の量、降雨から雨漏りするまでの時間、雨が止んでから浸出がおさまるまでの時間)や、雨漏り時の気象状況(雨の量や強さ、風向きは風の強さ)、さらには雨漏り時の室内の状態(各室のドアの開放状況、レンジフードや換気扇の稼働状況)などの情報が極めて重要になります。
それらの情報をもとに、散水調査(被疑箇所の推察、散水時間など)の計画を立てることになります。
いずれにしても雨漏りを解決するためには、雨漏り発生時の情報が何よりも重要です。
雨漏りが起きたら、できるだけ詳しく、できるだけ具体的に情報を記録しておいて頂きたいのです。
お客様との連携や協力なしに雨漏りの原因を究明することは難しいのです。
2019年2月14日
雨漏り110番調布店
今野昇